連載【旅暮しのエトセトラ】
第5話:旅のつれづれ①
わずか8キロの旅、ニコタマ!
〈二子玉川エクセルホテル東急〉
〈渋谷ストリームエクセルホテル東急〉
さぁ、いよいよ今日から1ヶ月の旅が始まる……という出発の朝は、大忙しである。
ふだんなかなか洗えないカーテンやシーツなどリネン類を洗濯する。洗濯していると、
「……いよいよ旅に出るのだ」
という高揚した気持ちがふつふつと湧き上がってくる。
ニコタマ、お洒落すぎる!
今回の旅は北海道の家からの出発である。
東京にも家はあるけれど、せっかくなので「東京ホテルライフ」から旅を始めよう。
ということで、家に荷物を置いたあと(←なんかへんな感じ!)、まず〈二子玉川エクセルホテル東急〉に。
実は、二子玉川ってほとんど行ったことがない。お洒落なお店がいっぱいだ。
ホテルのあるビル〈ライズ〉には商業施設がいろいろ入っていて、〈蔦屋家電〉にあるコンビニのファミマも、ふつうのファミマとは何か違っていて妙にオシャレ。(実際、店内にはワインがずらっと並んでいたり、文具が充実していたり……中身もぜんぜん違っていてびっくりした)
……もはや、ほとんど〈お上りさん〉状態。
ホテルの入口がわからなくて、ライズの回りをグルグル回ってしまった。(ホテルの入口、レストランのドアみたいで気付かなかった)
考えてみたら、うちからニコタマまで電車で20分、直線距離にしたら8キロくらいしかないのに……外国に来たみたいだ!
新しいホテルのカタチ
二子玉川エクセルホテル東急は、部屋のレイアウトも斬新だった。
部屋に入るとまず洗濯機がある。
なんと洗濯機の上に電子レンジ。ティーカップなどのお茶のコーナー。すごい取り合わせだなぁ。
その隣には台所のシンク、そしてIHヒーター。おお、台所付きだぞ。
窓の外を見ると……ええっ?! 木が生い茂っているよ!
「……ここ、何階?」
このホテルは、最上階がフロントで(眺望抜群!)、この部屋はその一つ下の階のはず……なんと、ビルの内側の部屋は窓から外を眺められない代わりに、屋上庭園の広いベランダがついているのであった。
窓が全開になるホテルの部屋というのも、なかなかいいものだ。
テレビが壁掛け式になってから、ホテルの部屋のレイアウトは劇的に変わったように思う。台所のシンクとは別に設置されている洗面台は高くて使いやすかった。レイアウトだけでなく、部屋のあちこちが微妙に新しい感覚。
このホテルには大浴場がある。大きい湯船に浸かっていると、小さなバスダブより疲れがとれるような気がするから不思議だ。
渋谷ストリーム?!
翌日は、東京での仕事をこなし、今度は渋谷ストリームエクセル東急ホテルに宿泊する。
この頃の渋谷の変貌は目まぐるしく、ちょっと行かないと、どんどん知らない街になってゆくようだ。
「渋谷ストリームって、ヒカリエとは違うんだな。まてよ、このスクランブルスクエアってなんだっけ?」
地図を見ても、さっぱりわからない。かつて渋谷に20年も通勤していた私なのに……!
またまた迷子になるのは避けたいので、とにかく地下道のC4出口を目指してゆく。
と、地上に出てみれば……
「……ここ、どこ?」
ぜんぜんわからない。川があるから、渋谷警察署あたりなのか?
……もはや、駅から徒歩3分の渋谷樹海に迷い込んだ気分。
たどり着いた渋谷エクストリームエクセルホテル東急も、超おしゃれな雰囲気だった。各階に靴のメンテナンスやクッキングスペースなどが設けられている。すごいアットホームな感じ。
ここも部屋の窓は全面だった。素晴らしい眺め!……なのだけれど、まだ、自分がどこにいるのかわからなくて、なんだか落ち着かない。
翌朝、エレベーターで乗り合わせたカップルの彼女の方が、「じゃ、私JRだから」と、2階で降りたので、やっと気付いた。
……もしかして、2階の通路で渋谷駅に直結しているのか?!
帰りは2階から長い通路を人の流れに沿ってひたすら真っ直ぐ歩いてみたら、スクランブルスクエアを通ってJR渋谷駅にたどりついた。なんだ、階段上ったり降りたりして、ひたすら地下C4出口経由でストリームまで行っていたけれど、駅直結だったんじゃん!
私はやっと自分がどこにいたのか理解したのであった。
「ストリームは昔の東横線の改札あたりで、スクランブルスクエアっていうのは、要するに昔の東急東横店か!」
悲しいかな、なぜか昔の建物をあてはめて、やっと理解している。なんといっても私の頭の中の地図にあるのは、昔の〈東横〉ままなのだ。
いやはや……渋谷の街は、地上に巡らされた通路で縦横無尽にビルからビルへとつながるようになったらしい。
まるで、子どもの頃に思い描いた未来都市のよう……。
うちからもっとも近い繁華街の渋谷が、本当に見知らぬ街のように思えた。
それは、家ではなくてホテルに泊まったことによる感慨だったのかもしれない。
文・河治和香 歴史時代小説作家
東京葛飾柴又生まれ。
日本大学芸術学部映画学科卒業後、CBSソニーを経て、日本映画監督協会に勤務。
主な著書に、「がいなもん松浦武四郎一代」(第25回中山義秀文学賞、第13回舟橋聖一文学賞受賞)、「ニッポンチ!」、「遊戯神通伊藤若冲」(以上、小学館)、「どぜう屋助七」(実業之日本社)など。
イラスト・杉井ギサブロー アニメーション映画監督・画家
沼津生まれ、原宿育ち。
東映動画に入社し、日本初の長編アニメ「白蛇伝」の製作にかかわる。その後、手塚治虫の虫プロ創立に参加。「鉄腕アトム」、「まんが日本昔ばなし」、「タッチ」、「キャプテン翼」などのテレビアニメ、劇場用映画として「ジャックと豆の木」、「銀河鉄道の夜」、「あらしのよるに」など多数。