連載【旅暮しのエトセトラ】
第6話:旅のつれづれ②
極私的・誕生日の過ごし方
付記〈東急フードショー〉

2022.03.17 STORY
  • バケーション
  • ワーケーション
  • 体験談
  • 旅するように暮らす
  • 杉井ギサブロー
  • 東急フードショー
  • 河治和香
  • 誕生日

 旅の空で誕生日を迎える。
 と、いっても厳密には家があるのに、ホテルに泊まっているだけの〈旅〉だけれど。
 (昔、バブルの頃は、クリスマスに都内のホテルに泊まったりしたものだ。懐かしい)
 とまれ、今はコロナ禍の世の中である。
 さて、どうやって過ごそうか……。

まず、朝ごはんを食べよう

 目下、私が一番気に入っている〈モーニング〉は、目黒駅の近くにある「果実園リーベル」というフルーツパーラーのフルーツサンド。

  季節のフルーツがギッチリ。フルーツヨーグルトも、これでもか!と果物が入っていて、食べ応え充分。
 朝、7時半から営業しているので、早起きして行くのがオススメ。昼になると行列の人気店なのである。(モーニングの時間帯は、コーヒーのおかわりもついてくるよ!)

プレゼントを買うのだ!

 「自分へのごほうび」という言い方が、どうもあまり好きになれない。言い訳っぽい感じがいやなのかな。そう、でも自分で自分に贅沢品を買うときは、いつでも、ちょっと言い訳したくなるのかも。
 そうだ。こんなときこそ……百貨店の商品券を利用しよう。
 デパートにはほとんど行かないので、贈答用の商品券がいつの間にかたまっている。これを使ってしまえば後ろめたくないぞ。
 というわけで、私は勇んでデパートに。
 目指すは、ディプティック。奇しくも私が生まれた年に創業したフランスの香水店。そう、自分自身への誕生日プレゼントはディプティックの香水にしよう。
 私は、〈オルフェオン〉という香りを選んだ。
 ディプティックが創業した頃、店の隣にあったバーの名前からつけられた香水。
 うーむ、私の生まれた頃のサンジェルマンの夜は、こんな香りのイメージなのか。
 香りは体の一部と直結して、気持ちを活性化してくれるような気がする。
 旅の道づれに、新しい香水……ふふふ、なんだかちょっと楽しい。

さて、誕生日のディナーは?

 せっかくの誕生日だ。大好きなものを食べよう。
 もう、前から決めていた。
 東京を離れると、無性に食べたくなるもの……江戸っ子のソウルフードといえば、〈弁松〉の弁当!
 (何をもって〈江戸っ子のソウルフード〉とするかは、人それぞれだと思うけれど、この弁松の弁当の「濃ゆい」と言われる味付けが、まさに江戸から続いた味であることは間違いないのではないかと思う)
 たかが弁当とあなどることなかれ。
 弁松の弁当は、ごちそうなのである。

 〈弁松〉は江戸時代から続く最も古い弁当屋。おかずは小さな焼き魚の他は、野菜の煮物ばかり。これが甘辛くてとっても美味しい。そう、江戸の味は甘くてしょっぱい。〈つと麩〉とか、〈生姜の辛煮〉とか、ここでしか味わえない煮物も。
 そして最後に、隅にみっちり入った豆きんとんで締めると、満足感でいっぱいになるのだ。そうそう、この日はめでたい日なのでお赤飯にした。ははは!

ケーキは別腹なのだ

 もちろん、誕生日だからケーキも食べる。

 久しぶりに東急フードショーに出かけた。
 ……って、フードショーが、マークシティ1階に移動していた。しかも、ここはスイーツの店ばかりではないか!
 まぶしすぎる……!
 どの店にも美味しそうなお菓子が並んでいて、目移りしてしまって決められない。
「お菓子というのは……文化なんだなぁ」
と、ふと思う。
 もちろん地方都市でも美味しいお菓子はたくさんある。そう、饅頭とショートケーキが一緒に並んでいるのもいいんだけれど……何といったらいいのだろう、このマークシティのフードショーに並ぶスイーツのそれぞれに洗練された雰囲気は?!
 迷いに迷って、〈パティスリーカメリア銀座〉の「キュート」というケーキを買った。

こってりして見えるけれど、中はフランボワーズのムースとゼリーで意外に軽い味わい。

 東急フードショーは、二子玉川エクセルホテル東急の近くにもあり、もちろん渋谷にもあって、ここでお惣菜を買ってホテルの部屋で食べていると、いわゆる「惣菜を部屋でモソモソ食べる」というしょぼくれたイメージが一掃されてしまう。
 いわゆる「デパ地下」なんだろうけれど、もっと食に対してクリエイティブな気持ちがあふれている。「こんな食べ物があるんだ!」とわくわくしてくる何かがある。
 ひとりで暮らししていると、なんとなくお惣菜を買って食べることに後ろめたさを感じたりするのだが、東急フードショーの惣菜とホテル暮らしは、その気持ちをもっと前向きにさせてくれたような気がする。
 こんな誕生日もいいかも、ね。でも……ちょっと、太ったかも!



文・河治和香  歴史時代小説作家

東京葛飾柴又生まれ。

日本大学芸術学部映画学科卒業後、CBSソニーを経て、日本映画監督協会に勤務。

主な著書に、「がいなもん松浦武四郎一代」(第25回中山義秀文学賞、第13回舟橋聖一文学賞受賞)、「ニッポンチ!」、「遊戯神通伊藤若冲」(以上、小学館)、「どぜう屋助七」(実業之日本社)など。

イラスト・杉井ギサブロー  アニメーション映画監督・画家

沼津生まれ、原宿育ち。

東映動画に入社し、日本初の長編アニメ「白蛇伝」の製作にかかわる。その後、手塚治虫の虫プロ創立に参加。「鉄腕アトム」、「まんが日本昔ばなし」、「タッチ」、「キャプテン翼」などのテレビアニメ、劇場用映画として「ジャックと豆の木」、「銀河鉄道の夜」、「あらしのよるに」など多数。

ご好評につきプランの申し込み受け付けは終了いたしました。
たくさんのお申込みありがとうございました。