連載【旅暮しのエトセトラ】
第4話:いよいよ、荷造りだ!

2022.03.03 STORY
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  • 杉井ギサブロー
  • 河治和香

  「旅をするように暮らしたい」という言葉には、「モノを持たずに身軽に生きたい」という意味も含まれているような気がする。
 「トランクひとつの荷物だけで暮らしたい」……とか。

ところで。
『365日のシンプルライフ』というドキュメンタリーを元にした劇映画『100日間のシンプルライフ』の予告編は、こんなふうなセリフからはじまる。

「祖父母の持ち物は200個、両親の持ち物は650個、僕たちの持ち物は1万個だ」

……なかなか衝撃的な事実。
試しに私も今回の長旅の荷造りするにあたって「生活に必要なものってどれくらいあるんだろう?」と1週間ほどかけてリストアップしてみた。
 ……なに、この量?!
 モノの多さは、生きていく上での不安の裏返しかもしれない。

持ち物の山に挫折する

 北は北海道から、南は沖縄まで旅するので、滞在場所ごとに衣服計画を立ててみた。
 メモを見ると、ほとんど、女性誌の〈着回しコーデ1ヶ月〉企画みたいである。
 トランクに詰める荷物の山を見て、呆然とした。
 若い頃ならば、「なんでもいい」と頓着しなかったのに、年とともにこだわりが強くなり、いつの間にか「慣れ親しんだ日常」に固執している。
……自分はもう若くないんだな。
そんなことを実感する。
 私は、一人旅の寂しさを、「いつもの愛着のある日常品」で埋めようとしているのだった。そして……結局、その現実を受け入れて大量の荷物とともに旅することを、私は選んでしまったのである。
 今は物流が発達しているので、もう、大きなトランクに詰めて、次の滞在地へと送りながら旅をしよう、と決断したのだ。

ついに枕まで……!

 〈身軽な旅〉を放擲した時点で、私がその巨大なトランクに詰め込んだもの……それは、枕。
 よく「枕が変わると寝られない」というけれど、逆にいえば、「枕さえいつもと同じならば、どこでも熟睡できる」ということ。私の枕は羽毛で圧縮すると意外にペッタンコになるので、とうとう枕まで持参することに!

 ついでに旅の相棒に、昔、未亡人になったばかりの頃、最初の旅の機内で購入したクマのぬいぐるみも荷物の隙間に入れた。
 (いやはや、「ぬい旅」(ぬいぐるみと旅する)というわけではないんだけど、部屋に戻ってきたときに、ベッドにちょこんとクマがいると、なんだかほっこりするので。ちなみに枕の横にあるグリーンの玉は、マッサージボール)

宅急便の重さを越えたらどうなる?!

 それにしても、このトランクは大きい。何も入れなくても8キロもある。
 ヤマト運輸に問い合わせしてみたら、いわゆる宅急便というのは、三辺の計が160㎝までとのこと。スーツケースの形状であれば多少大きくても大丈夫らしい。
 問題は重量で、25キロまで。それを越えてしまうとヤマト便になってしまい、翌日配送などのサービスが受けられなくなってしまう。
「旅先で重量が25キロを越えてしまったらどうしたらいいんでしょうか?」
 恐る恐る聞いてみたら、「その時は、いくつかに分けて発送して下さい」と至極真っ当な返答が。いざという時のために、百均の大きなファスナー付シートバッグと、養生テープなどの梱包セットも入れておく。
 そして、荷物はどんどん限りなく増えてゆくのであった。(……こわい!)

荷造り中の妄想の罠

 荷物は最小限に……これは旅の鉄則だとはわかっているのだけれど、初めての経験なので、どうしても不安になって荷物が多くなる。さらには、いろいろ「やりたいこと」や、「できるかもしれない」と思ったものも持っていきたくなって……。
 結局は、旅に出たら、それほどできることってないのかもしれない。
 それなのに、どうしてあれもこれも、持っていきたくなるんだろう。
「こんなに荷物持って……1ヶ月もフラフラ旅して……大丈夫なんだろうか?」
 直前になって、なんだか不安になってきてしまった。

 それにしても。
 旅は準備がたいへんだ、という人がいる。
 旅は準備が楽しい、という人もいる。
 私はこの過程がたいへんだったけど、なかなか面白かった。
 トランクの中には、衣服などのオシャレ関係よりも、一人でいる時間が不安にならないように本を用意したり、ティータイムが充実するようにとコーヒー豆から、お茶の急須まで詰め込んだ。
旅の荷物を眺めてみると、改めて今の自分にとっての大事なものの優先順位がわかったような気がする。

 ホテルが落ち着くのは、モノがないからだ。モノがあふれていると思考も行動もスッキリしない。せっかくモノがないホテルライフに、結局ゴチャゴチャと日常を持ち込んではもったいなかったな……ということを悟ったのは、残念ながら旅から戻ってからのことであった。ああ!



文・河治和香  歴史時代小説作家

東京葛飾柴又生まれ。

日本大学芸術学部映画学科卒業後、CBSソニーを経て、日本映画監督協会に勤務。

主な著書に、「がいなもん松浦武四郎一代」(第25回中山義秀文学賞、第13回舟橋聖一文学賞受賞)、「ニッポンチ!」、「遊戯神通伊藤若冲」(以上、小学館)、「どぜう屋助七」(実業之日本社)など。

イラスト・杉井ギサブロー  アニメーション映画監督・画家

沼津生まれ、原宿育ち。

東映動画に入社し、日本初の長編アニメ「白蛇伝」の製作にかかわる。その後、手塚治虫の虫プロ創立に参加。「鉄腕アトム」、「まんが日本昔ばなし」、「タッチ」、「キャプテン翼」などのテレビアニメ、劇場用映画として「ジャックと豆の木」、「銀河鉄道の夜」、「あらしのよるに」など多数。

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