連載【旅暮しのエトセトラ】
第10話:旅のつれづれ⑥
ちょっと南の島まで
〈宮古島東急ホテル&リゾーツ〉
いよいよ旅も終盤に。めざすは南の島、宮古島。
実は、この旅はコロナの第4波が収束しつつある時期だった。
それでも沖縄にはPCR検査を受けてから向かったのだが、そのへんについては改めて別項で。
もう一つ、最初に。
今回の宮古島は6月の梅雨のまっただ中。連日、天気予報は雨ザーザーマーク。
でも、現地では意外なことにそれほど雨には降られなかった。
こんなに科学が発達しても、いまだ島の天気は予測がつかないものらしい。
まずは、車と〈相棒〉の調達だよ!
ちなみに……この宮古島に関しては、やはり車が必須のような気がする。もちろんバスで移動も可能なのだが、基本的には島での移動は、車がないと行動半径が極端に狭まってしまうのだ。
ホテルも(絶景地に位置しているため)繁華街からは離れているので、車がないと買い物もたいへんなことになりそう……。
高級リゾートなので、三食ホテルで食べるとなるとけっこう物入りである。(残念ながら、売店もあまり充実していない)
……で。
私は免許を持っていないのである。
仕方ないので、ここばかりは1泊2日の旅の道連れを募ることにした。
なんといっても……この〈ツギツギ〉の旅は、本当は一部屋に2人まで泊まれるのだ。
……この素晴らしい高級リゾートに、ただで泊まれるよ。
これだけでも、ちょっとえばれる(?)。……同行者、即決。
さらに交通費なのだが、実は、宮古島には2つも空港があって、ホテルに近い宮古空港の他に、下地島空港という宮古島とは橋でつながっている空港もあって……こっちの空港を利用する航空券だと、なんと羽田から片道1万円前後……往復2万円で、「ちょっと南の島へ行ってくる」ことができてしまうのだ。東京から大阪に行くより安いかも?!
実は、私も帰りの那覇→羽田のチケット料金は7000円だった。
今まで調べてみたこともなかったけれど、南の島は意外と身近に存在していたのである。
橋を巡ってみよう
最初に、車で島を巡った2日間のことについて。
飛行機の時間にあわせてバスで下地島空港まで友人を迎えに行き(ホテルの前からバスが出ている)、空港でレンタカーを借りて、まずは「橋巡り」。
宮古島は周囲の島と、伊良部大橋、来間大橋、池間大橋と3つの橋で結ばれている。このエメラルドグリーンの海にかかる長い橋が絶景スポットなので、とにかく全部、行ってみた。
いやもうどの橋もすごい。特に伊良部大橋は船の通過のために高低差があるので眺めがすばらしい。池間大橋はもともとヒューッと延びている細長い土地の続きがそのまま橋になった感じ。思ったより道幅が狭いので細く長く感じるのかもしれない。
梅雨の曇り空だったのでガイドブックみたいな写真は撮れなかったけれど、それでも充分満足できる絶景だった。
走っていると、道のあちこちに、〈マンゴー〉の幟がはためいている。
そう……ちょうど、6月下旬から宮古島の特産品、マンゴーが最盛期なのであった。
ユートピアファーム
というわけで、〈ユートピアファーム〉という観光農園に出かけて行くことにした。
温室がいろいろあって、バナナ、パパイヤ、アボカドなど珍しいフルーツがいっぱい。マンゴーのハウスでは、巨大なマンゴーがあちらこちらにぶら下がっている。マンゴーって、こんなふうになっているんだ……!
ちなみに、マンゴーにもいろいろ種類があって、スーパーでふだんよく見かけるのは、アップルマンゴー(これは、すでに袋をかぶっていた)、収穫期がもう少し後のキーツマンゴーは、グリーンからピンクのグラデーションが美しい。
ここは、ハイビスカス園があったり、ブーゲンビリアが咲き乱れたりしていて、まさに南国の楽園。マンゴージュースやカットマンゴーも食べた。
……今回の旅で、もっとも観光気分にひたれた一瞬だったかも。
シギラ黄金温泉!
宮古島には日帰り温泉があるというので楽しみにしていたら、なんと配水管の損傷とかで休業中……もうひとつのシギラ黄金温泉に行ってみることにした。
日帰り温泉のノリで出かけて行ったら、ここはリゾート施設の一部らしくて、水着持参で行くとプールなどの利用もできるらしい。
が、温泉だけでも、なかなかよかった。
〈黄金温泉〉というだけあって、本当にお湯が黄色……黄金色でござる!
高台にある露天風呂は、眺望抜群。
梅雨空で曇っていたので、のんびり長湯できたが、日差しの強い季節は日を遮るものがないので、けっこう暑いかもしれない。
その下にある緑の生い茂った露天風呂は、低温のお風呂で、こちらも気持ちいい。
……なんとも〈南国の温泉〉を満喫できるロケーションであった。
島の食べ物
車のあるうちに……と、スーパーで買い出し。
宮古島の中心部には、スーパーもあるし、道の駅ならぬ〈島の駅〉もある。
持ち帰って食べようと〈海ぶどう〉や〈ジーマーミー豆腐〉、そして宮古島特有の果物……ピーチパイン(果肉が白っぽい)とか、島バナナなどを購入。
マンゴーも、こちらでは無造作に網に入って売っているのにはびっくり。枇杷くらいの大きさの〈ピンポンマンゴー〉という可愛らしいマンゴーもあって、これは食べやすかった。
といっても、島バナナは真っ黒に熟れないと食べられないし、マンゴーもすぐには食べられないのでお土産用。(島バナナは小さくて高いけれど、熟れてから食べたら濃厚な味でとても美味しかった)
ちなみに、この時は外食したくても、緊急事態宣言で居酒屋系は休業中の店が多かった。
友人からは、「ヤシガニっていうのが食べたいです」というメールが事前に来たので調べたけれど、今はほとんど獲れないらしい。
(ヤシガニは、名前の如く、椰子の木の下にいるカニ……というか、ザリガニの巨大なヤツだそうである。珍しい食べ物なのでお値段も相応のよう)
宮古島は鮮魚と並んで、宮古牛も有名。焼肉屋で焼肉定食とハンバーグを食べたけれど、これまた美味しかった。
素晴らしき、ホテルライフ……
さて、友人がわずか24時間の宮古島ライフを満喫し(「こんな素晴らしいホテルならば、もっといたかったー!」と名残惜しみながら)東京へと戻っていったあとは……
ひたすら静かな波の音。目の前にひたすら続く真っ白なプライベートビーチ。
ほんと、今回の旅、ここに1ヶ月滞在するのでもよかったな、と思うほど、心地よい数日間を過ごした。
部屋は広いし、バルコニーまで付いていて、目の前は絶景。
梅雨時だったので、天気は晴れたり曇ったりだったけれど、雨の音さえも心が洗われるよう……ああ、寝てしまったらもったいないなぁ、と思いつつ、うとうと。なんという贅沢なひととき。
命が延びる、ってこんなことを言うんだろうなぁ。
蕭々と降る雨の音と、遠くから響いてくる波の音。そんな中で、日がな一日部屋にひっそりとこもって過ごす。これもまた旅の醍醐味かな。
朝食は、何度かホテルのバイキングを利用した。
地元の食材を使っていて、どれも美味しい。
もうひとつ、よかったのが……最後の晩に予約したホテル内のスパ〈ゆるりあ〉の雪塩を使ったマッサージ。とろけそうな心地よさで旅の疲れも解消して、さらには全身ツルツルに。雪塩は名の通りパウダーのように細かい塩。なんとなく全身清められたみたいな気分になった。
浦島太郎の気持ち……
南の楽園での毎日は、あっという間に過ぎていってしまう。
東京に戻る日の朝は煙るような雨だった。
浦島太郎の心境がよくわかる。
ずっといたいけれど、そろそろ現実に戻らなくては。
荷造りを終えて、宮古空港へ向かう頃には雨もすっかり上がり、鳥も鳴き始めた。
これが島の天気なのだろう。
文・河治和香 歴史時代小説作家
東京葛飾柴又生まれ。
日本大学芸術学部映画学科卒業後、CBSソニーを経て、日本映画監督協会に勤務。
主な著書に、「がいなもん松浦武四郎一代」(第25回中山義秀文学賞、第13回舟橋聖一文学賞受賞)、「ニッポンチ!」、「遊戯神通伊藤若冲」(以上、小学館)、「どぜう屋助七」(実業之日本社)など。
イラスト・杉井ギサブロー アニメーション映画監督・画家
沼津生まれ、原宿育ち。
東映動画に入社し、日本初の長編アニメ「白蛇伝」の製作にかかわる。その後、手塚治虫の虫プロ創立に参加。「鉄腕アトム」、「まんが日本昔ばなし」、「タッチ」、「キャプテン翼」などのテレビアニメ、劇場用映画として「ジャックと豆の木」、「銀河鉄道の夜」、「あらしのよるに」など多数。