連載【旅暮しのエトセトラ】
第11話:旅のつれづれ⑦
贅沢すぎて、さびしい……!
〈東急バケーションズ箱根強羅〉

2022.04.21 STORY
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  • 杉井ギサブロー
  • 東急バケーションズ箱根強羅
  • 河治和香

さて、旅の最後の訪問地は箱根。
滞在型の〈東急バケーションズ〉のホテルである。
〈東急バケーションズ〉のホテルは、一種のリゾートマンションのような形態で、フロントはあるものの食事などの設備はないので、基本は自炊である。
要するに貸別荘に近いようなものらしい。
今回のツギツギスタイルの旅では利用できる〈バケーションズ〉がいくつかあったのだが、私は車がないので、唯一、公共の交通機関と徒歩で(!)たどり着けそうな箱根を選んだ。

ザッツ・避暑地!

 久しぶりの箱根である。
 予約しておいたロマンスカーが人身事故で運休になったため、小田原経由で箱根登山鉄道→湯本で乗り換え→強羅からケーブルカー→中強羅下車。
 この日は日曜日だったので登山電車は強羅まで混んでいたが、なぜか強羅からのケーブルカーの乗客は、たった3人。中強羅で降りたのは私一人であった。
 木々が鬱蒼と生い茂る細い道をポツネンと歩いてゆく。自分の足音と、ゴロゴロとカートの音が響くばかり……なんだか心細くなってきた。

広い……広すぎる!

 5分ほど歩いて〈東急バケーションズ箱根強羅〉に到着。
 フロントで鍵をもらって部屋に入って驚く……ひ、広いよ!
 
 あれっ? (押し入れに蒲団が見えた)
もしかして、自分で蒲団敷くの? ここ、和室か? ←蒲団が苦手な私。
 恥を忍んで、フロントに電話。
「あのぅ……ベッドのお部屋はないのでしょうか?」
「は? 部屋は、全室同じでございます。お部屋は6人用でして、玄関を入った左にベッドルームがございます」
「ええっ?(赤面)」
 確認したら……ありました、ベッドルーム! まさかの別室!
 いやもう、広い。広すぎる。想像を絶する広さだよ。

なんだか落ち着かなくて、全部の棚を開けて点検してみる。 
……すごい。食器も鍋も。ホットプレートまであるよ! 

 部屋にはリビングの大テーブルと、和室の座卓テーブル、勉強机のようなデスク、ソファの他に……窓辺にビーズクッションソファと丸テーブルまである。(ワークスペースだらけだ!)
 しかも驚いたことに、トイレも洗面所も2つずつあった。こんなにいっぱいあって、どうしよう。

さらには、温泉が!

 大浴場は温泉である。露天風呂もすばらしい。(イラストの「じょんのび」は、亡夫の故郷新潟で、お風呂に入ってホ~~ッとしたとき、思わずみんな口にするセリフ。のんびりというような意味だけど、なかなか的確な標準語がみつからない独特の方言)

 もともとゆったりしたホテルであるのだが、他の宿泊客の気配が感じられず、ほとんど貸し切り状態である。
 なんという贅沢。
 宮古島の「のんびり」とは、またベクトルの違う「のんびり」。
しかし……
 夜になって、カーテンを閉めると……なんだかあまりに広くて、さみしい。
 いや、寂しいというより、こわくなってくる。
私はテレビは見ないのだけれど、思わずつけてしまおうかな、と一瞬思ったほど。
 だけど、きっとテレビをつけたらつけたで、またいっそう空虚な寂しさに襲われてしまいそう……

もう、いっそう寝室に引っ込もう。
 それにしても、部屋が広いと、動線が長くなってけっこうたいへんだ。
 全部の部屋の電気を消すだけで、3分はかかるな。いや、スイッチの場所を探しながらだから、もっとか。
 ベッドルームに入って、やっといつものホテルみたいに枕元のスイッチで照明の管理ができてホッと一息。
 本でも読もうと思ったけれど……あっという間に爆睡してしまった。

山で隠遁生活はできないと悟る

 寂しいとかなんとかぼやいていても、私はわりと孤独には強い方だと思っていた。
 だけど、この箱根の「贅沢なひとりぼっち」は、なんとも落ち着かなかった。
 静かすぎるのも、人の気配がまったくないのも、意外なことにだめだということにはじめて気付いた。
 ……寂しがり屋だったのね、私!
 終日(ひねもす)部屋にこもっているのは宮古島とまったく同じなのに、このそわそわ落ち着かない感じは何なんだろう、と不思議に思ったけれど……部屋が広すぎたせいかもしれない。
 1日のうち、午前中はダイニングの大テーブルで、午後は窓側の丸テーブルで……と気分を変えて仕事ができるのはいいのだけれど。
 ここは、できたら誰かを誘って来たいな、と思った。
 家にいるみたいだから、やっぱり誰かと一緒に食事したくなってしまうのかも。
 ……などと、贅沢なことを考えながら、気付けば1ヶ月の滞在も残り数日となっていたのであった。



文・河治和香  歴史時代小説作家

東京葛飾柴又生まれ。

日本大学芸術学部映画学科卒業後、CBSソニーを経て、日本映画監督協会に勤務。

主な著書に、「がいなもん松浦武四郎一代」(第25回中山義秀文学賞、第13回舟橋聖一文学賞受賞)、「ニッポンチ!」、「遊戯神通伊藤若冲」(以上、小学館)、「どぜう屋助七」(実業之日本社)など。

イラスト・杉井ギサブロー  アニメーション映画監督・画家

沼津生まれ、原宿育ち。

東映動画に入社し、日本初の長編アニメ「白蛇伝」の製作にかかわる。その後、手塚治虫の虫プロ創立に参加。「鉄腕アトム」、「まんが日本昔ばなし」、「タッチ」、「キャプテン翼」などのテレビアニメ、劇場用映画として「ジャックと豆の木」、「銀河鉄道の夜」、「あらしのよるに」など多数。

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