連載【旅暮しのエトセトラ】
第7話:旅のつれづれ③
せせらぎの街、三島
〈富士山三島東急ホテル〉
いよいよ東京を離れ、旅に出る。
最初の目的地は、品川から新幹線だと35分でついてしまう三島。
実は、この日は東京での仕事が押して最終便に近い新幹線で向かう。品川駅も新幹線も深夜はひとけもなく移動は快適だった。
夜の移動は景色は楽しめないけれど、このコロナ禍ではなかなかいいかもしれない。
意外に穴場かも!
富士山三島東急ホテルは、駅前である。
窓からは富士山、そして眼下には三島駅のホーム。(鉄道・貨物好きにはたまらないロケーションかも)
ここも、部屋に入るとまず洗面台がある。
最近のホテルは、洗面所はトイレや浴室と一緒ではなく、ドアの外に設置されるケースが増えているようだ。手洗い励行の毎日においては、いちいちトイレのドアを開けなくてすむので、とても便利。
このホテルは、一見ビジネスホテルのようにみえて長期滞在も可能な部屋のレイアウトになっている。引き出しなどの収納も多い。
町中に水が湧き出ているぞ
三島では、毎朝三嶋大社まで散歩した。ラジオ体操とウォーキングを日課にする。
この町は、富士山の伏流水があちこちにあふれている。道の横のドブさえも美しい流れだ。ホテルから三嶋大社までの道すがらは、「水辺の文学碑」が建ち並んでいるのだけれど、この文学碑……様々な作家の記した三島の印象をひとつひとつ読むだけで、この街の魅力がよくわかる。
ホテルに戻れば、富士山を眺めながら大浴場で朝からお風呂……ああ、何という贅沢だろう!
ホテルの前には「楽寿園」という公園がある。
入園料300円だけれど、ここもすごくすてきな散歩コース。おすすめ。
(三島を出発する日に出かけた私は、園内があまりに広いので迷子なり、新幹線に乗り遅れそうになった!)
三島グルメ・街中篇
三島は美味しいものがいっぱいある。
まず、有名なのは……ウナギ。有名な店はいくつもあるが、私は「すみの坊」という店で、一番安いうな丼3800円を奮発して食べた。(店内は、私ひとりだった)
ふかふかの関東風。「蒸し」てから「焼く」蒲焼きである。
……やっぱり美味しい。(でも、ひとりなので、黙々と食べる!)
もうひとつの名物は、〈みしまコロッケ〉である。(三島は馬鈴薯のメイクイーンの産地であるらしい)
観光協会で、コロッケ地図をもらってくる。いやはや町中のあちこちの飲食店でコロッケを作っている。居酒屋でもテイクアウトできるらしいのだが(鰻コロッケなんていうのもある!)、さすがに居酒屋でコロッケ1個注文するのも気が引けるので、私は少し歩いて〈グルッペ〉というパン屋で売っている「みしまコロッケ」と「ダイヤモンド富士」の2種類を買ってきた。
左が〈みしまコロッケ〉、右が半熟卵入りの〈ダイヤモンド富士〉。美味!
三島グルメ・ホテル篇
富士山三島東急ホテルの1階には、〈さすよ〉という干物屋があって、ここのカウンターでは干物定食を食べることができる
5種類もの干物の切り身を目の前で自分であぶって食べる。香ばしくてとても美味しい。
そして、6月は……ちょうど〈生シラス〉と〈桜エビ〉の季節。この〈さすよ〉で買ってきて、部屋で、白いごはんを丼に盛って「生シラスと桜エビたっぷり丼」!(←こんな時のために、プラスチックのボウルを持参!)
……三島では、これが一番おいしかったかも。
こんなおもてなしの遊び心も……!
三島は、旅のウォーミングアップにはぴったりの街かも。東海道という幹線の途中に位置していて、駅近なので立ち寄りやすいし……なかなか訪れるチャンスのない町だったので、今回は新鮮な驚きでいっぱいだった。
出発の朝……部屋のコップで水を飲もうとして、ふと気付いた。
……わぁ、コップの底が富士山だったんだ!
旅の途中は、こんな小さな発見も楽しくなる。
まだまだ、旅ははじまったばかりだ。
文・河治和香 歴史時代小説作家
東京葛飾柴又生まれ。
日本大学芸術学部映画学科卒業後、CBSソニーを経て、日本映画監督協会に勤務。
主な著書に、「がいなもん松浦武四郎一代」(第25回中山義秀文学賞、第13回舟橋聖一文学賞受賞)、「ニッポンチ!」、「遊戯神通伊藤若冲」(以上、小学館)、「どぜう屋助七」(実業之日本社)など。
イラスト・杉井ギサブロー アニメーション映画監督・画家
沼津生まれ、原宿育ち。
東映動画に入社し、日本初の長編アニメ「白蛇伝」の製作にかかわる。その後、手塚治虫の虫プロ創立に参加。「鉄腕アトム」、「まんが日本昔ばなし」、「タッチ」、「キャプテン翼」などのテレビアニメ、劇場用映画として「ジャックと豆の木」、「銀河鉄道の夜」、「あらしのよるに」など多数。