連載【旅暮しのエトセトラ】
第2話: コロナ禍の世の中を旅する、ということ
「このコロナの時代に旅するって……しかも、1ヶ月も?!」
さすがにどうなんだろう?と、旅のモニター当選通知を受けた時、考えた。
万が一、旅の途中で感染したりしてしまったら、ほんと顰蹙ものである。大丈夫かな?
でも……
人生の二巡目は、旅からはじめよう
結果として、私は旅に出ることにした。
今回の1ヶ月コースの時期は、2021年6月の1ヶ月間。他の時期だったら見合わせていたかもしれない。
極めて個人的な理由なのだけれど……実は私はこの6月に誕生日を迎え、いよいよ〈K点越え〉なのだった。
(いやもうカンレキって言えばいいんだけど。なんか漢字で書いてみたら、急に年相応というか、めっきり老け込んだ気分になっちゃって。それで勝手にK点越えとか言ってます。今はそう珍しいことでもないところも、ジャンプのK点越えみたいだし!)
毎年、誕生日は周囲の人が祝ってくれていたけれど、コロナの影響で一昨年は一人で過ごしたし、去年も一人の予定だった。
いい年して、別に誕生日も誕生会もないのだけれど……今回はK点である。
同級生は次々と定年を迎え、まさに人生の後半戦を迎えるポイントとなる日を、ポツンと一人でいつもの日常の中で迎えるのも、ちょっと面白くないような気がした。
……人生の二巡目を、旅から始めるのはどうだろう?
私の場合、今回の旅への衝動は、この一点に尽きる。
ちょうど小説の仕事も本を出したばかりで、次の連載の準備期間だったし……。
そうだ、世の中には、〈リフレッシュ休暇〉なるものがあるらしい。
とにかく頑張ってここまで生きてきたんだから、他人に迷惑をかけないように、それだけは充分気をつけて、1ヶ月、のんびり無為に過ごしてみよう。
旅のマイルール!
それでも、このコロナ禍の世の中を1ヶ月も旅するのである。
いくつかのルールを自分の中で決めることにした。
★人混みには近付かない。
★基本的には、人と会わない。
★できるだけ外食はしない。
……って、そんな旅をして、楽しいのかな?
旅の楽しさは、本来は人の集まる観光地に行き、遠くの友を訪ね、そしてその土地の美味しいものを食べることにあるんじゃないだろうか?
でも、感染リスクもまたそのへんにあるらしいから、今回は仕方ない。
「観光して、お買い物して、美味しいもの食べる」だけが旅の楽しみじゃないし。
そう……それこそ、「暮らすような、旅」。
この旅で、何がしたいの?
と、改めて自問自答してみる。
……旅という非日常に身を置きたいんだ。たぶん、それだけ。
昔、文士といわれる人が執筆のために伊豆や蓼科などに長逗留したのは何のためだったのだろう?
もちろん原稿を書くためといわれているけれど、実際には現実から離れたところに身を置いて、構想を練ったり、考えをまとめたりするためだったのではないか。
非日常は、思考を深める。
というわけで。
今回の旅は、通常の旅の楽しさは追求せず、ただひたすら〈旅という非日常に身を置くこと〉にフォーカスしてみる。
1ヶ月、あちこちの日常ではない場所に籠もってみる。
これもまた自粛生活の一つの形になるかもしれない。
改めて、旅のテーマを考える
★遍路の旅が、自分自身との会話の旅であるように、日常を離れて自分と語り合う旅。
心の中にたまった長年の澱のようなものを整理できたらいいな。
★あるいは、〈人生の棚卸し〉というイメージ。自分を見つめ直して、心の中の整理整頓をする…… 新たな人生の二巡目を踏み出すために。
別に、旅に出なくてもできるんじゃないの?と、突っ込みを入れたくなっちゃうけれど……まぁ、なかなか家じゃ、できないんだよな。(旅先でも、できないかもしれないけど)
自分でも本当は、わかっている。
「そんなことやっても、人生何も変わらないよ」
……そう。でも、やってみたい。その気持ちを大事にしたい。
まぁ、長い人生にそんな〈骨休め〉が、1ヶ月くらいあってもいいんじゃないかな、と思って。
文・河治和香 歴史時代小説作家
東京葛飾柴又生まれ。
日本大学芸術学部映画学科卒業後、CBSソニーを経て、日本映画監督協会に勤務。
主な著書に、「がいなもん松浦武四郎一代」(第25回中山義秀文学賞、第13回舟橋聖一文学賞受賞)、「ニッポンチ!」、「遊戯神通伊藤若冲」(以上、小学館)、「どぜう屋助七」(実業之日本社)など。
イラスト・杉井ギサブロー アニメーション映画監督・画家
沼津生まれ、原宿育ち。
東映動画に入社し、日本初の長編アニメ「白蛇伝」の製作にかかわる。その後、手塚治虫の虫プロ創立に参加。「鉄腕アトム」、「まんが日本昔ばなし」、「タッチ」、「キャプテン翼」などのテレビアニメ、劇場用映画として「ジャックと豆の木」、「銀河鉄道の夜」、「あらしのよるに」など多数。