連載【旅暮しのエトセトラ】
第13話:旅の悩みのタネ
……PCR検査、宅急便、郵便物の山!

2022.05.05 STORY
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  • 杉井ギサブロー
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 1ヶ月間の旅を終えて空港に着いたとき、しみじみ思ったのは、
「ああ、まずはコロナにもかからず、無事戻って来れてよかった」
ということであった。
 この〈ツギツギ旅〉を実行した2021年6月時点では、まだワクチン接種は実施されておらず、
いわば丸腰の状態での旅だったので感染予防にはずいぶん気を遣った。

「PCR検査推奨のお願い」

 今、振り返ってみると、昨年の夏前……6月はまだのんびりしていたと思う。
その1ヶ月後の宮古島では、夏の感染拡大の第5波に襲われ、多くの感染者が出た。
ニュースを見て、本当に他人事ではない気がした。
6月の時点でも、すでに飛行機のチケットを予約するときに航空会社のサイトでは、『沖縄県からのお願い』として、
「沖縄県に渡航される方に対し、出発地での事前のPCR検査等を推奨することとしています」
という沖縄県からの要請が記されていた。
 ……そうだ。現実を見据えたとき、旅人というのはウイルスの運び屋になりかねない。
 私は旅に出る前は、ほとんど家に籠もりっぱなしだったので、感染リスクは限りなく少なかったと思うけれど、今回の沖縄行きは、20日あまりあちこちを行脚した後である。
「これは、PCR検査を受けておかないとだめだな」
というわけで、関西からいったん北海道の家に戻ったタイミングでPCR検査を受けた。

 航空会社によっては航空券を予約するとオプションでPCR検査を付けられるサービスがあるので、私はそれを利用。なるべくギリギリに検査しようと思ったら、検体の郵送が週末にかかってしまい、陰性の結果が送られてきたのが飛行機に搭乗する直前!でヒヤヒヤしたものの、これで安心して旅を続けることができた。
 これからも、しばらくの間は、私たちは旅をする上でも(あるいは人と会う、ということさえも)このウイルスと共存していかなければならない中で、PCR検査などはもはや1つの〈旅の費用〉とみなして予算に組み込んでおく必要があるのかもしれない。
 旅の在り方も、これから少しずつ変化してゆくことだろう。
 それを面倒くさいこととか、仕方がないことと、とらえるのではなくて、逆にそうした工夫をすれば、安心して旅ができる、人と会えるのだ……という、前向きなとらえ方をしてゆきたいと思う。

航空輸送による宅急便は〈エタノール〉表記に注意!

 今回の旅では、私は身軽に動こうと、ほとんどの移動は小さいスーツケース1つ(飛行機ならば機内持ち込みサイズ)にまとめ、他の荷物は巨大なトランクに詰めて宅急便で次の目的地に送るというスタイルをとっていた。
 問題は、宮古島など沖縄行きの宅急便である。沖縄行きの宅急便は航空輸送になるので、航空法によって送れないものが出てくる。
 もちろん、事前に私も調べていたし、だいたいは飛行機に乗るときの手荷物検査に準拠すればいいだろうと気楽に考えていた。
 ……が。
 想像以上に厳しかったのである。
 行きは京都のホテルから送ったので、伊丹空港にあるヤマトの営業所から電話がかかってきた。
「飛行機に積めないものが入っているようですので、中をお調べしてもいいでしょうか?」

「えっ?(何が引っかかったんだろう?)」←心当たりがない! 

 ここで同意しないと飛行機に乗せてもらえないから、もちろんスーツケースを開けて調べて下さい、と伝える。(こんなこともあろうかと、スーツケースに鍵はかけてなかった)飛行機に乗せてもらえないと、どうなってしまうんだろう……船便になるんだろうか?!
「その際、お乗せできない荷物は、どこに送り返しましょうか?」
「ええー?」
 ……送り返しましょうか、って。そんな……旅の途中なのに、どうしたらいいんだよぅ。
 悩んだ揚げ句、自宅近くのヤマト営業所に送ってもらい、帰宅したら取りに行くことにした。
 以下、戻ったあとでヤマト営業所から回収した、送り返されてきた荷物。

 私はてっきりバッテリー類だと思っていたら……主にアルコール関係だった。
 もちろん、アルコールは飛行機に持ち込み禁止だから消毒用のアルコールスプレーは仕方ないにしても(「アルコール」などとシールまで貼っておいたのに、なぜか気付かず入れてしまったらしい)、でも、除菌シートもだめだったとは!
 さらに、マウスウォッシュ(たしかにこれもアルコールだ!)、洗顔オイル、フレグランスミスト、アロマオイル……こんなものまで?!
 要するに、内容表示に〈エタノール〉とあるとはじかれてしまうらしい。知らなかったなぁ。(しゅーん……)

OAS航空宅配便なるものもあるよ!

 というわけで。
 航空宅急便は、便利だけれど意外に面倒だな、というのが実感。
 ちなみに宮古島からは、ホテルから勧められた〈OAS航空宅配便〉も利用してみたが、こちらの方が重量制限などいろいろな面で使いやすいような気がした。
 それにしても。
 スーツケースが大きかったせいもあるけれど、宮古島⇔東京だけでも宅急便代は片道5000円超かかってしまう。
 今回の旅の宅急便の費用と、その荷造りに要した時間はかなりなものだ。
 もう少し頑張りがきくようならば、荷物を減らしスーツケースは飛行機の預け入れにして自分で運ぶのが一番安上がりでいいのかもしれないな、と思った。
 でも、1ヶ月の長丁場をスーツケース1個で過ごせるだろうか。
(……と、荷物を巡る堂々巡りは旅の途中でも続くのであった)

たまる郵便物!

 家に家族がいる場合は、それほど問題ではないだろうけれど、私のように一人暮らしの場合、長旅の時、問題になるのが郵便物である。
旅行中の郵便物を局に留め置いてくれる〈不在届〉というサービスがあり、それを最寄りの郵便局で利用したが、この保管期間は30日間なので、丸々1ヶ月の旅だとギリギリである。私は仕事柄、新聞連載があるため、毎日のように新聞が郵便で届いてしまうので半月止めただけで、ものすごい郵便物の量になってしまった。

 この郵便の問題や、不在中の家のことなどもやはり心配だったので、1ヶ月の旅の途中で一度は家に戻ったのだけれど……定住する家を持たず、ある一定の期間「旅するように暮らす」ためには、この郵便の問題をみんなどうやってクリアしているのだろう? その期間だけ、郵便を受け取ってもらえる人の住所に転送手続きをしておく……とか。
 〈旅するように暮らす〉ためには、荷物からも、郵便物からも、ある程度は身軽になっておく必要があるかもしれない。

アドレスホッパー?!

 旅の途中で(たとえばPCR検査キットの送付先などの問題に直面したとき)、

「なんか今の私って、世に言う〈住所不定〉ってやつかも」 
などと思ったりしたのだが、今は、住所不定などとは言わずに、〈アドレスホッパー〉と呼ぶそうだ。(ちなみに、PCR検査キットは、旅の途中のホテル宛にして受け取った)
 なんと軽やかな響き。

 スマホがあれば固定電話がいらなくなるように、もはや「家って必要?」と感じている人々が出現しはじめているらしい。

 いずれにしても、考え方も、暮らし方も、生き方も……多様化してきて、そしてそれにあわせた選択肢が少しずつ増えてきているということなのだろう。

 今後、このツギツギの〈暮らすように旅するスタイル〉も、その多様化の中でのひとつの選択肢になってゆくような気がする。



文・河治和香  歴史時代小説作家

東京葛飾柴又生まれ。

日本大学芸術学部映画学科卒業後、CBSソニーを経て、日本映画監督協会に勤務。

主な著書に、「がいなもん松浦武四郎一代」(第25回中山義秀文学賞、第13回舟橋聖一文学賞受賞)、「ニッポンチ!」、「遊戯神通伊藤若冲」(以上、小学館)、「どぜう屋助七」(実業之日本社)など。

イラスト・杉井ギサブロー  アニメーション映画監督・画家

沼津生まれ、原宿育ち。

東映動画に入社し、日本初の長編アニメ「白蛇伝」の製作にかかわる。その後、手塚治虫の虫プロ創立に参加。「鉄腕アトム」、「まんが日本昔ばなし」、「タッチ」、「キャプテン翼」などのテレビアニメ、劇場用映画として「ジャックと豆の木」、「銀河鉄道の夜」、「あらしのよるに」など多数。

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