連載【旅暮しのエトセトラ】
第8話:旅のつれづれ④
歩きながら思索する街、金沢
〈金沢東急ホテル〉
三島から名古屋で乗り換え、「しらさぎ」で一路、金沢へ。
コロナのことが心配だったのでグリーン車を利用したのだが、米原までは車内に私ひとりだった。(米原から2人乗車してきた)
車中で、名古屋で購入した名物の味噌串カツとおにぎりを食べる。
見どころは、歩いてまわろう!
コロナ禍の旅では、外食を慎んでいるので、飲食店の時短営業はそれほど影響はないのだけれど、悲しいのは美術館などの文化施設がことごとく閉館していたことだ。
というわけで、もっぱらの楽しみは町歩きである。
ひたすら歩く。
そして、この金沢は、ただ歩いているだけでもかなり楽しい。
東急ホテルが繁華街のど真ん中、香林坊にあるので、どこへでも歩いて行けるのだ。
早朝は、タダだよ!
今回の旅では、毎朝、近所の神社に参拝(散歩)するのがマイルール。
というわけで、まずは加賀百万石、前田家の菩提寺尾山神社に。ホテルから10分もかからない。
この神社は門構えが変わっていて、なんとステンドグラス入り。実物は、ガイドブックで見るよりすてきだった。
境内を散策して、裏手の鼠多門橋を渡ると(朝、7時に開門する)、そのまま金沢城公園に通じている。
さらに……昼間は有料の兼六園も、開園15分前までは、なんと「早朝無料開園」しているのだ。まさに早起きは三文の得!(季節によって開園時間が違うので行くときは事前に確認を)
香林坊からは、金沢神社(途中に坂あり)や、金沢で一番古い神社だという石浦神社も徒歩圏内なので、毎朝、あちこちの神社を詣でてみた。
こっそり入れる鈴木大拙館
美術館関係は全滅だけれど、鈴木大拙館には知人がいるので訪ねていったところ、有名な〈水鏡の庭〉に案内してくれた。館内の見学は不可だが、この池の部分だけは外からも見学することができる。
鈴木大拙は、世界的に有名な仏教哲学者である。
この〈水鏡の庭〉は、人工的な池に、ときどき装置が作動して、水面にさざ波が……
なんとも心がシンと落ち着く空間だ。
(ちなみに、鈴木大拙館の人たちは、毎朝、館長さんはじめみんなでこの「水鏡の庭」の掃除をするそうだ。禅の世界では、掃除も修行だとはいうけれど、冬の寒い日など、たいへんだろうなぁ)
「また、開館しているときにゆっくり訪ねたいな」と、一番思ったのは、ここ。すてきだった。
金沢のおみやげは……
鈴木大拙館の学芸員さんに勧められたおみやげは、まず……「菓匠 高木屋」の〈あんず餅〉。
アンズの餅の中に、アンズ餡とアンズが入っている……丸ごとアンズ尽くし!
その他、〈あんずどら焼き〉、〈あんずパイ〉などアンズを使った菓子や、丸いモナカの皮の中にゼリーが入っている〈紙ふうせん〉など、さまざまなお菓子がある。(あんずどら焼きも、かなり美味しかったぞ)
もうひとつ、「橘珈琲店」というすてきな店も教えてもらった。
こちらは、香林坊からはちょっと歩く。コーヒー豆の専門店で(喫茶コーナーもある)、なんと東京などからも注文があるという、こだわりの店。
私はお土産用の豆だけでなく、1回分ずつのドリップパックを15種類も買ってしまった。(もう、すごいたくさん豆の種類があるのだ!)
それからの旅は、ホテルの部屋で毎朝、日替わりのコーヒーを飲んだ。
これもまた、楽しい旅の味わいのひとつかな……。
近江町市場を探検する
金沢には、近江町市場という(上野のアメ横とか、京都の錦市場みたいな)市場がある。様々なものが売られていて、商品を眺めながら歩いているだけで、楽しい。
私がいつもここで買うのは、まるひな良縁堂の「糸より玉露」。
金沢のお茶といえば、加賀棒茶が有名だけれど、私は断然、こっちの方が好き。
玉露の茎の皮の部分(?)をお茶にしたものだそうで、玉露だというのに、熱湯でザッと入れる(水出しも美味しい)。独特の甘さがあるのだ。
いろいろな楽しみ方のできる町……
金沢東急ホテルでは、ジムも利用した。
前もって予約しておくと、その時間は貸し切りになるので、ひとりじめできて気楽。(って、自転車漕いだだけだけど!)コロナ禍でジムを閉めているホテルが多かったが、こうしたジムの利用は、旅のホテルステイのメリハリになるのだろうな、と思った。
歩きながら思索する、というけれど、実際には歩いているときは、何も考えない。
「無心に歩く」ということは、「無心になるために歩く」ということなのかな、などと考えたりした金沢滞在であった。
文・河治和香 歴史時代小説作家
東京葛飾柴又生まれ。
日本大学芸術学部映画学科卒業後、CBSソニーを経て、日本映画監督協会に勤務。
主な著書に、「がいなもん松浦武四郎一代」(第25回中山義秀文学賞、第13回舟橋聖一文学賞受賞)、「ニッポンチ!」、「遊戯神通伊藤若冲」(以上、小学館)、「どぜう屋助七」(実業之日本社)など。
イラスト・杉井ギサブロー アニメーション映画監督・画家
沼津生まれ、原宿育ち。
東映動画に入社し、日本初の長編アニメ「白蛇伝」の製作にかかわる。その後、手塚治虫の虫プロ創立に参加。「鉄腕アトム」、「まんが日本昔ばなし」、「タッチ」、「キャプテン翼」などのテレビアニメ、劇場用映画として「ジャックと豆の木」、「銀河鉄道の夜」、「あらしのよるに」など多数。